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{{Infobox Musician
| Name = レオシュ・ヤナーチェク<br /> {{lang|cs|'''Leoš Janáček'''}}
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| Img_capt = レオシュ・ヤナーチェク
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| Birth_name = <!-- 個人のみ --><!-- 出生時の名前が公表されている場合にのみ記入 -->
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| Born = {{生年月日と年齢|1854|07|03|死去}}
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| Origin = {{AUT1804}} [[モラヴィア]]
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| Genre = [[オペラ]]<br />[[管弦楽曲]]<br />[[室内楽曲]]<br />[[ピアノ曲]]<br />[[合唱曲]]
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'''レオシュ・ヤナーチェク'''（{{lang-cs|'''Leoš Janáček'''}} {{IPA-cs|ˈlɛoʃ ˈjanaːt͡ʃɛk|}} {{Audio|Cs-Leos_Janacek.ogg|発音}}, [[1854年]][[7月3日]] - [[1928年]][[8月12日]]）は、[[モラヴィア]]（現在の[[チェコ]]東部）出身の[[作曲家]]。

モラヴィア地方の[[民族音楽]]研究から生み出された発話旋律または旋律曲線と呼ばれる旋律を着想の材料とし、[[オペラ]]をはじめ[[管弦楽曲]]、[[室内楽曲]]、[[ピアノ曲]]、[[合唱曲]]に多くの作品を残した。そのオペラ作品は死後、1950年代に[[オーストラリア]]の指揮者[[チャールズ・マッケラス]]の尽力により中部ヨーロッパの外に出て、1970年代以降は広く世に知られるようになった。

== 生涯 ==
=== 少年時代（1854年 - 1868年） ===
[[ファイル:Bystrouska.jpg|left|150px|thumb|故郷フクヴァルディに建つ代表作『[[利口な女狐の物語]]』をモチーフとしたモニュメント]]
[[ファイル:Brno view.jpg|thumb|left|ブルノ]]
[[1854年]][[7月3日]]、モラヴィア北部の{{仮リンク|フクヴァルディ|de|Hukvaldy}}{{Efn|[[:de:Hukvaldy|Hukvaldy]] / {{lang-de|Hochwald}}; ''ホーホヴァルト'' ： 現在のチェコ共和国北東部にあたり、当時は[[オーストリア帝国]]領であった。フクは、同時期に活動した心理学者[[ジークムント・フロイト]]の出身地である。}}という村で、父イルジーと母アマリアの10番目の子供（14人兄弟）として誕生した{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=28}}{{Sfn|内藤|2007|p=181}}。祖父と父はともに教師で、音楽家でもあった{{Sfn|内藤|2007|p=181}}{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=26-28}}{{Efn|小学校教師とオルガニストの兼務。カントルという{{Sfn|内藤|2007|p=181}}。}}。
[[ファイル:Leóš Janáček (1874).png|サムネイル|若い時（1874年）。]]
[[ファイル:Leos Janacek signature.svg|サムネイル|レオシュ・ヤナーチェクの署名]]
11歳のとき、ヤナーチェクの音楽的素養を見抜いていた父イルジー{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=30}}の意向によってモラヴィアの首都[[ブルノ]]にある[[聖アウグスチノ修道会|アウグスティノ会]]修道院{{Efn|[[ブルノ]]のアウグスティノ修道院でヤナーチェクが生活していたころ、同じ修道院の[[修道士]]にモラヴィア出身の[[グレゴール・ヨハン・メンデル]]がいた。メンデルが後世に[[メンデルの法則]]として知られることになる論文を発表したのは、ヤナーチェクが修道院へやってきた翌年の[[1866年]]である。現在ではこの修道院は[[遺伝]]の法則を発見したメンデルの修道院として有名であり、一部は現在メンデル博物館となっている。}}付属の学校に入学し、同時に修道院の少年聖歌隊員となった。聖歌隊の指揮者であった[[パヴェル・クシーシュコフスキー]]はヤナーチェクの父イルジーのもとで音楽の教育を受けた人物で、[[ベドルジハ・スメタナ]]と同時期に活動したチェコ音楽における重要人物とされる{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=31-37}}。ヤナーチェクは約4年{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=31}}または8年{{Sfn|内藤|2007|p=181}}の間、クシーシュコフスキーの指導を受けた。[[1866年]]にイルジーが死去し、伯父のヤンの後見を受けることになった{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=37}}。なお、ヤナーチェクは後に生まれ故郷のフクヴァルディに足繁く通うようになり、1921年には家を購入している{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=235}}。

=== 王立師範学校時代（1869年 - 1874年） ===
[[1869年]]秋、ブルノ市のドイツ人中学校を卒業した{{Sfn|内藤|2007|p=182}}ヤナーチェクは王立師範学校の教員養成科に入学し{{Sfn|内藤|2007|p=182}}、音楽のほか歴史、地理、心理学で優れた成績を収めた。イーアン・ホースブルグは、ヤナーチェクのオペラ作品に登場人物に対する深い理解がうかがえることと心理学でよい成績を収めたこととの関連性を指摘している{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=37}}。[[1872年]]、3年間の教科課程を修了したヤナーチェクは無給での教育実習を2年間課せられた{{Sfn|内藤|2007|p=182}}{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=37-38}}。同じく1872年にアウグスティノ会修道院の聖歌隊副指揮者に就任{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=37-38}}{{Sfn|内藤|2007|pp=181-182}}。留守がちであったクシーシュコフスキー{{Efn|この時期にクシーシュコフスキーはアウグスティノ修道院からオロモウツ大聖堂へ転任した{{Sfn|内藤|2007|p=182}}}}にかわって活動を取り仕切った。指導を受けた生徒の一人によると、ヤナーチェクは「気性が激しく、怒りっぽく、発作的に怒りを爆発させていた」という{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=37-38}}。[[1873年]]、スヴァトプルク合唱協会の指揮者に就任{{Sfn|内藤|2007|p=182}}{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=38}}。イーアン・ホースブルグによるとスヴァトプルク合唱協会は主に織工によって構成されており、「居酒屋に集まる労働者の歌唱クラブの域をあまり出なかったが、ヤナーチェクの熱意のおかげでその水準はかなり高まった」{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=38}}。ヤナーチェクは合唱協会のために四声部の世俗歌を作曲しており{{Sfn|内藤|2007|p=182}}、イーアン・ホースブルグは、合唱協会の指揮者を務めたことと『耕作』や『はかない愛』といった初期作品のいくつかが無伴奏男声合唱のための作品であることとの関連性を指摘している{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=38}}。

[[1874年]]、2年間の教育実習を終え最終試験に合格したヤナーチェクは王立師範学校を卒業。この時ヤナーチェクが取得したのは「[[チェコ語]]が話される学校で地理と歴史を教える資格」であり、音楽を教える資格ではなかった（ヤナーチェクが音楽の正教員としての資格を得たのは1890年5月のことである{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=53}}）。また、当時多くの中等学校ではチェコ語ではなく[[ドイツ語]]が話されていた{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=40}}。<!--出典が不明確なためコメントアウトします/パヴェル・クシーシュコフスキーはブルノ・ベセダというアマチュア音楽家グループの中心人物としてモラヴィアの民俗音楽の豊かさを認識させる運動を行っていた音楽家で、その後のヤナーチェクの音楽に対して影響を及ぼした。-->

=== プラハに滞在（1874年 - 1875年） ===
ヤナーチェクは王立師範学校長のエミリアン・シュルツに[[プラハ]]のオルガン学校{{Efn|教師とオルガニストを養成する学校。オーケストラの楽員と歌手を養成するための学校である音楽院と並んで、当時のプラハにおける音楽家養成機関であった{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=42}}。）}}で学ぶことを勧められ、1年間の休暇が与えられた{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=38}}。出願に際し、師であるクシーシュコフスキーは以下のような推薦状を書いた。

{{Quotation|彼の音楽的才能、特にオルガン演奏の才能は殊のほか傑出したものであり、音楽をあますところなく研究する十分な機会が与えられるならば、彼はいつの日か真にすぐれた音楽家になることでしょう。|{{Harv|ホースブルグ|1985|p=40}}}}

[[ファイル:Prague View.JPG|thumb|プラハ]]
プラハ滞在中、ヤナーチェクは[[アントニン・ドヴォルザーク]]と出会って親交を深め、その音楽を深く愛するようになった{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=44-45}}。また、[[ロシア]]を「全[[スラヴ人|スラブ民族]]の理想の源泉」と位置付けて親ロシア的な心情を抱くようになり、[[サンクトペテルブルク|ペテルブルク]]留学を志し独学で[[ロシア語]]を学んだ{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=207-208}}。ヤナーチェクは後に生まれた2人の子供に、ロシア式の名をつけている。1918年に完成した交響的狂詩曲『[[タラス・ブーリバ (ヤナーチェク)|タラス・ブーリバ]]』は「ロシア人をスラヴ民族の救済者であり指導者であるとみなす国家的情熱」が反映された作品とされる{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=191-192}}。ヤナーチェクの最後のオペラ作品である『死の家より』は[[フョードル・ドストエフスキー]]の小説『[[死の家の記録]]』を、1921年初演のオペラ『カーチャ・カバノヴァー』は[[アレクサンドル・オストロフスキー (劇作家)|アレクサンドル・オストロフスキー]]の戯曲『{{仮リンク|嵐 (戯曲)||en|The Storm (Ostrovsky)|label=嵐}} 』をもとに制作されており、他に実行には移せなかったものの[[レフ・トルストイ]]の小説『[[アンナ・カレーニナ]]』、『[[生ける屍]]』を題材にしたオペラの制作を計画していた{{Sfn|粟津|1986|pp=76-77}}。また[[1898年]]にはロシア愛好者協会を設立して[[1914年]]まで会長を務め{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=208}}、1909年にブルノのロシア文化サークルの会長を務めた{{Sfn|粟津|1986|p=77}}。文芸評論家の[[粟津則雄]]は、ロシアの作曲家を除けばヤナーチェクほど「ロシアの文化や文学と強く結びついた作曲家はちょっとほかに思いつかない」と述べている{{Sfn|粟津|1986|p=77}}。粟津は、ヤナーチェクの親ロシア的な心情には政治的な動機はまったくなく、「ロシアとかチェコといった区別を超え、それらをともに包んだ[[汎スラヴ主義|汎スラヴ]]的なものへの夢想」によるものであったと分析している{{Sfn|粟津|1986|p=77}}。

ヤナーチェクは[[教会音楽]]を中心としたオルガン学校の教育課程を「きわめて優れている」成績で修了{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=45-46}}。[[1875年]]の夏をズノロヴィの叔父のもとで過ごした後、ブルノに戻った{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=46}}。

=== ブルノへ戻る（1875年 - 1879年） ===
ブルノに戻ったヤナーチェクは師範学校の臨時教員となり、アウグスティノ会修道院聖歌隊とスヴァトプルク合唱協会の指揮を再開した。新たにブルノ・クラブ合唱協会聖歌隊{{Efn|ヤナーチェクは、男性のみで編成されていたブルノ・クラブ合唱協会聖歌隊を混声合唱団に変え、オーケストラの楽員を養成するためのヴァイオリン学校の設立を提案した{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=47}}。}}の指揮者にも就任し、多忙となったため[[1876年]]10月にスヴァトプルク合唱協会の指揮者を辞任した{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=46-47}}。ブルノに戻ったヤナーチェクが手掛けた作品には男声合唱曲の『まことの愛』、『沈んだ花環』のほか、初の器楽作品である『管弦合奏のための組曲』、[[メロドラマ]]『死』などがある{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=47-48}}。イーアン・ホースブルグはこの時期のヤナーチェクを「平凡な成行きで作曲と編曲にも手を染めた有能な教会音楽家以上の存在であることを暗示するものは、まだそこにはいっさいなかった」と評している{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=48}}。

=== ライプツィヒ・ウィーンに滞在（1879年10月 - 1880年） ===
[[ファイル:Leipzig rathaus.jpg|thumb|ライプツィヒ]]
[[ファイル:Stadtteile von Wien entlang der Donau (gesehen von Nordwesten).jpg|thumb|ウィーン]]
[[ファイル:Janacek_with_wife.jpg|thumb|200px|ヤナーチェクとズデンカ・シュルゾヴァー(1881年)]]

やがてヤナーチェクは「基本的な音楽技能を向上させたい」と思うようになり、[[1879年]]10月、王立師範学校長エミリアン・シュルツの勧めで[[フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ音楽演劇大学ライプツィヒ|ライプツィヒ音楽院]]に入学した。この時ヤナーチェクはシュルツの娘、ズデンカ・シュルゾヴァーと交際していた{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=48-51}}。音楽院でのヤナーチェクの評価は「『並はずれた才能に恵まれ、まじめで勤勉で』、『きわめて有能で知的で』あり、「まれにみる真剣さ」で勉強に熱中している」というものであった{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=51}}が、ヤナーチェクは授業の内容に満足できず、[[1880年]]2月末に[[ウィーン]]へ移った{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=50-51}}{{Efn|フランスで[[カミーユ・サン＝サーンス]]に学ぶことを勧める者もいたが、恋人ズデンカの反対に遭い断念した{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=50-51}}。}}。
イーアン・ホースブルグによると5か月間のライプツィヒ滞在中にヤナーチェクは[[ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン]]、[[フランツ・シューベルト]]、[[ロベルト・シューマン]]の音楽に接しており、この時期に作曲された作品からはその影響がうかがえる{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=51}}。ウィーン滞在中、ヤナーチェクは2つのコンクールに『ヴァイオリン・ソナタ』を出品したが「あまりにも保守的」であるとして高い評価を得ることはできず、一方音楽院の授業{{Efn|ヤナーチェクは[[グスタフ・マーラー]]の師にあたる[[フランツ・クレン]]の指導を受けている{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=51}}。}}にも満足することができなかった。<!--出典が不明確なためコメントアウト/クレンはマーラーの伝記では厳格な教師として知られているが、ヤナーチェクは彼を理論的ではないと感じ、不満を募らせたのだという。もっとも、彼が本当に不満を感じたのは音楽教育に対してではなく、辺境出身者として大都会で感じた疎外感ではなかったかとの見方もなされている。-->
ライプツィヒ、ウィーンでの滞在を通してヤナーチェクは、「正規の教育を受ける必要はもはやないという事実を痛感した」{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=51}}。<!--別の文献と内容が噛み合わないため、ひとまずコメントアウトします/1880年5月、ヤナーチェクは教育省から音楽の正教員として承認された<ref name="内藤2007-183">[[#内藤2007|内藤2007]]、183頁。</ref>。-->

=== 再びブルノへ戻る（1880年 - 1916年） ===
[[ファイル:Oga Janáčková 2509.jpg|thumb|180px|オルガ]]
ウィーンからブルノへ戻った後ズデンカと婚約し、[[1881年]][[7月13日]]に結婚。翌[[1882年]]8月に娘のオルガが誕生したが、直後に母アマリアとの同居を望むヤナーチェクに反発したズテンカが娘を連れて2年間実家に戻るなど、当初から夫婦関係は不安定であった{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=52-53}}。また、民族主義者のヤナーチェクは「きわめてドイツ的」なズデンカの親族に当惑を覚えていた{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=52}}。ヤナーチェクのもとへ戻ったズテンカは長男ヴラディミールを出産したがヴラディミールは[[猩紅熱]]にかかり、[[1890年]]11月に2歳半で死去した{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=53}}。ヴラディミールの死により、結婚・同居関係こそ解消されなかったものの、ヤナーチェク夫妻の結婚生活は事実上破綻した{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=53}}。なお、ズデンカはヤナーチェクの死後「ヤナーチェクとの生活」と言う回想録を遺し、2人の関係について率直に語っている。<!--出典が不明確なためコメントアウト/ブルノに帰ってから後のヤナーチェクは[[民族主義]]運動に共感し、[[ドイツ語]]での会話を拒否するようになっている。-->

[[1882年]]9月、ヤナーチェクはブルノにオルガン学校（現在の[[ヤナーチェク音楽院]]）を設立した。この学校ではヤナーチェクが自ら音楽理論を教えたほか、義父となったエミリアン・シュルツが心理学を教えた{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=53}}。学校の教育課程は3年間で、目的は「教会音楽の技能の質を高めること」であった。これについてイーアン・ホースブルグは、「プラハ・オルガン学校の規則を手本としていたことは明らか」としている{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=53}}。

同じく1882年9月、ブルノ・クラブ合唱協会運営の「若い歌手とヴァイオリニストのための学校」がヤナーチェクの計画に基づき設立されると、その責任者に就任した。アウグスティノ会修道院聖歌隊の指揮者にも復帰し、さらに[[1884年]]11月に<!--出典が不明確なためコメントアウト/ブルノに設立されたチェコ人劇場のための-->音楽雑誌『ブデブニー・リスティ』を創刊、編集者を務めた{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=55-56}}。ヤナーチェクはブルノ・クラブ合唱協会内部から批判を浴び、[[1889年]]以降聖歌隊の指揮者と「若い歌手とヴァイオリニストのための学校」の運営責任者から退いた{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=48, 56}}。この時期のヤナーチェクは多くの仕事や夫婦間の軋轢を抱え、1881年から1888年にかけて作曲したのは『四つの男声合唱曲』などいくつかの合唱曲のみである。{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=56}}。[[ユリウス・ゼイエル]]の戯曲を原作とするオペラ『シャールカ』の作曲にも取り掛かったが、ゼイエルから詞の使用許可を得ることができず、とん挫した。『シャールカ』が完成したのはゼイエルが[[1901年]]に死去し、その作品がチェコ・アカデミーに遺贈された後のことである{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=57-60}}。

[[1886年]]、ヤナーチェクは民俗音楽を研究していた[[民俗学|民俗学者]][[フランティシェク・バルトシュ (民俗学者)|フランティシェク・バルトシュ]]（[[:en:František Bartoš (folklorist)]]）と親交を深め、バルトシュに協力して民俗音楽と[[フォークダンス|民俗舞踊]]の収集・分析作業を行うようになった{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=61}}。作業を進める中でヤナーチェクは民俗音楽の技法に魅せられていき、民俗音楽を採集することにとどまらず編集・刊行し、さらには自らの器楽作品に活用するようになった{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=66}}。ヤナーチェクは[[モラヴィア]]の[[民謡]]にとくに強い関心を抱いた{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=68}}{{Efn|ヤナーチェクはフランティシェク・バルトシュと共同で『モラヴィア民謡の花束』、『モラヴィア民謡新集成』を編集しており、前者にはモラヴィアのみならず[[スロヴァキア]]や[[ボヘミア]]のものを含む{{Sfn|内藤|2007|pp=197-198}}民謡が、後者には2000以上の民謡が収録されている{{Sfn|赤塚|2008|pp=190-191}}。}}。内藤久子は、ヤナーチェクは民謡を「民衆の生を包みこむ、まさに生きた歌」ととらえ、芸術音楽が「唯一、民謡から発展する」ことを確信していたと主張している{{Sfn|内藤|2007|p=199}}。19世紀末から20世紀初頭にかけ、ヤナーチェクは作曲家としてよりも民俗音楽学者として名が通っていたといわれる{{Sfn|赤塚|2008|p=191}}。[[1889年]]から[[1890年]]にかけて作曲された『[[ラシュスコ舞曲]]』は、編曲・採集を除き、民俗音楽の影響がうかがえる初の作品とされる{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=73}}。イーアン・ホースブルグは『ラシュスコ舞曲』について、以下のように評している。「特色の重要性は、いくら強調してもしすぎることはない。この比較的初期の作品においてヤナーチェクは、のちの作品で発展させてゆく旋律とリズムの創意を身につけていたことをすでに示していた」{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=76}}。[[1891年]]にはオペラ『物語の始まり』が完成{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=67}}。この作品はモラヴィア人がモラヴィアの民俗的資料に基づいて作曲した初のオペラであった{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=81}}。イーアン・ホースブルグは「『物語の始まり』の重要性は、「その質がどうあれ、ここでヤナーチェクが音楽の点でも題材の点でも『シャールカ』のロマン主義を断固として放棄したことである」と評している{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=79}}。音楽学者の内藤久子は、ヤナーチェクはこの頃から固有の語法を確立していったと考察している{{Sfn|内藤|2007|p=185}}。

1891年を境に、ヤナーチェクは民俗音楽の旋律を作品中に直接用いる手法を用いなくなった。イーアン・ホースブルグによると、[[1894年]]完成の序曲『[[嫉妬 (序曲)|嫉妬]]』、[[1896年]]完成の宗教曲『主よ、我らをあわれみたまえ』、[[1898年]]完成の[[カンタータ]]『アマールス』、[[1901年]]完成の宗教曲『主の祈り』といった作品にそのような傾向がはっきりと認められ{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=82}}、1903年完成のオペラ『[[イェヌーファ]]』へと繋がる。『イェヌーファ』はガブリエラ・プライソヴァーによる[[戯曲]]『彼女の養女』の翻案を基にした作品で、この戯曲はモラヴィアの村を舞台とし、さらにモラヴィア方言で書かれている点に特徴があり{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=95-97}}、ヤナーチェクが独自の語法を確立した作品として知られる{{Sfn|内藤|2007|p=185}}。ヤナーチェクは1894年から『イェヌーファ』の制作にとりかかっていた{{Sfn|内藤|2007|p=185}}{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=90}}。『イェヌーファ』は子供の死にまつわる悲劇を描いた作品であるが、完成の直前、ヤナーチェクは実際に娘のオルガを病で失っている{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=79}}。死の間際の願いは『イェヌーファ』の全曲の演奏を聴きたいというもので、願いが叶えられた5日後にオルガは死去した{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=111-112}}。ヤナーチェクはプラハでの初演を望んだが果たせず、1904年1月にブルノの仮設劇場で上演された。地元での評価は極めて高かったが、「プラハの批評家たちはほとんど公然と敵意を示した」{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=112-113}}。イーアン・ホースブルグは当時のヤナーチェクについて、「プラハにおいては、彼はいくぶん冷やかに作曲家とみられていたが、それよりもわずかに敬意をこめて民俗学者と考えられていたのだった」{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=9}}、「オペラ劇場やコンサートホールでの手ごわい競争者というよりも、民俗学者としての知識を身につけている二流の地方の作曲家であるという見方がプラハではなおも一般的であった」{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=115}}と評している。<!--出典がないためコメントアウト/なおヤナーチェク自身の回想（1906年）によれば、ドヴォルザークは『イェヌーファ』について、「必ずプラハで上演される」と断言したという。ドヴォルザークは『イェヌーファ』の初演の直後に死去した。-->

『イェヌーファ』の完成から数か月でヤナーチェクはオペラ『運命』の制作に乗り出し、半年で完成させた{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=117}}。イーアン・ホースブルグによるとこの作品は「然るべき方向に進めることができなかった失敗作」であった{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=117-119}}。台本の書き直しを模索するなど上演を躊躇するうちに[[第一次世界大戦]]が勃発して上演が不可能となり、没後30年にあたる1958年に初めて舞台で上演された{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=117, 129}}。1906年から1909年にかけ、ヤナーチェクはモラヴィア教員合唱団のために3つの男声合唱曲（『ハルファール先生』、『マルイチカ・マグドーノワ』、『7万年』）を作曲しており、これらはヤナーチェクの男性合唱曲の「頂点を極めた傑作」と評されている{{Sfn|内藤|2007|p=186}}。

1904年9月、ヤナーチェクは王立師範学校の教員を辞職した{{Sfn|内藤|2007|pp=185-186}}。[[1904年]]、[[ワルシャワ]]音楽院院長就任を打診される。親露家のヤナーチェクはこの話に前向きであったが、立ち消えとなった{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=130-132}}。[[1905年]][[10月1日]]、ブルノでチェコ人のための大学創立を要求するデモと軍隊が衝突し一人の労働者が死亡する事件が起こると、ヤナーチェクは猛烈に怒り『[[ピアノソナタ (ヤナーチェク)|ピアノソナタ「1905年10月1日 街頭にて」]]』を作曲した。

=== プラハでの『イェヌーファ』上演（1916年） ===
[[ファイル:Prague 07-2016 View from Petrinska Tower img4.jpg|thumb|プラハ国民劇場]]
[[1916年]][[5月26日]]、かつて果たされなかったプラハでの『イェヌーファ』上演が実現した。上演が実現しなかった要因の一つとして、[[国民劇場 (プラハ)|プラハ国民劇場]]の首席指揮者{{仮リンク|カレル・コヴァジョヴィチ|en|Karel Kovařovic}}がヤナーチェクに対し悪感情を抱いていたことが挙げられる。1887年、ヤナーチェクはコヴァジョヴィチのオペラ『花嫁』を「威嚇的な暗さと絶望的な悲鳴にみち、短剣が振り回されるいわゆる音楽」、「不安定な和音と動揺する聴感覚をそなえた序曲は、音楽的才能-かなり耳を悪くしてしまう才能-を証明している」と酷評していた{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=112}}。事態が打開したのはヤナーチェクの友人ヴェセリー夫妻のコヴァジョヴィチに対する説得が功を奏したからであった{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=172-173}}。プラハ国民劇場での上演はイーアン・ホースブルグ曰く「度肝を抜くような大成功」で、その後ウィーン、[[ケルン]]、[[フランクフルト]]、[[リュブリャナ]]、[[ポズナニ]]、[[リヴィウ|リヴォフ]]、[[バーゼル]]、[[ベルリン]]{{Efn|[[1924年]]のベルリンでの上演を観たヤナーチェクは、[[エーリヒ・クライバー]]の指揮を絶賛している{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=265-266}}。}}、[[ザグレブ]]などで上演された{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=176, 265-266, 290}}。プラハでの上演後、ヤナーチェクは[[ヨゼフ・ボフスラフ・フェルステル]]への手紙で次のように述べている。

{{Quotation|私はまるでおとぎ話の世界に生きているかのような気持です。わたしはなにかせき立てられるようにして、次々に作曲をしているのです。|{{Harv|ホースブルグ|1985|p=176}}}}

この言葉通り、ヤナーチェクはプラハでの『イェヌーファ』上演以降、精力的に作品をつくり出していった。イーアン・ホースブルグはこれを、「異常な力と独創性をそなえた音楽」が「万華鏡のようにほとばしり出（た）」と評している{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=176}}。

=== カミラ・シュテスロヴァーとの出会い（1917年 - 1928年） ===
[[ファイル:Kamila Stösslová in 1917.jpg|thumb|カミラ・シュテスロヴァー（1917年）]]
[[1917年]]夏、ヤナーチェクは二人の子供を持つ38歳年下の既婚女性カミラ・シュテスロヴァーと出会い、魅了された{{Efn|妻ズデンカの回想録によれば、それ以前にも「運命の女」が2人いた。そのうちの1人は、『イェヌーファ』のプラハ初演でコステルニチカを歌ったソプラノ歌手、ガブリエラ・ホルヴァートヴァーだった。}}。
以降ヤナーチェクは生涯にわたりカミラに対し熱烈に手紙を送り続け、その数は11年間で600通以上に及ぶ{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=200, 421}}。カミラが住む南[[ボヘミア]]の[[ピーセク]]を訪れ家に泊まることもあったが、両者に肉体関係はなかったとされる{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=200}}。カミラの存在は晩年の活動に多大な影響を与えたと考えられており{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=200}}、たとえば『[[消えた男の日記]]』は若者がゼフカという名のジプシーに恋をする[[連作歌曲]]であるが、ヤナーチェクはカミラに対し「『日記』を作曲しているあいだ、あなたのことしか考えませんでした。あなたはゼフカであったのです!」と書いた手紙を送っている{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=200-201}}。また、管弦楽曲『[[シンフォニエッタ (ヤナーチェク)|シンフォニエッタ]]』は、カミラの前で構想が立てられた{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=200}}。

[[1918年]]、[[チェコスロバキア]]が[[オーストリア＝ハンガリー帝国]]から独立。1919年、新政府がヤナーチェクが設立したオルガン学校を国立音楽院としたが、その院長にはヤナーチェクではなく弟子の{{仮リンク|ヤン・クンツ|en|Jan Kunc}}が抜擢され、ヤナーチェクはショックを受けたとされる{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=190-191}}。1926年に完成した管弦楽曲『シンフォニエッタ』は独立を果たしたチェコスロバキアに対する誇りが反映された作品で、チェコスロバキア共和国軍に捧げられた{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=283}}。

[[1920年]]にプラハで上演された『{{仮リンク|ブロウチェク氏の旅行|en|The Excursions of Mr. Brouček to the Moon and to the 15th Century}}』は、ヤナーチェクが手掛けたオペラ作品の中で唯一初演がプラハで行われた作品であり{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=189-190}}、さらに初めて作家に頼らず独力で台本を完成させるスタイルを確立させるきっかけをつかんだ作品である{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=178}}。『ブロウチェク氏の旅行』より後に制作された4つオペラ（『[[カーチャ・カバノヴァー]]』、『[[利口な女狐の物語]]』、『{{仮リンク|マクロプロス事件|en|The Makropulos Affair (opera)}}』、『{{仮リンク|死者の家から|en|From the House of the Dead}}』）はすべてヤナーチェク自身が台本を手掛けた{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=178}}。和田亘はその理由を、ヤナーチェクが目指した「できるかぎり自然な楽曲形成をおこなうためにはそれにふさわしい台詞が必要であった」からだとしている{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=420}}。なお、イーアン・ホースブルグによるとこのうち『カーチャ・カバノヴァー』、『利口な女狐の物語』、『マクロプロス事件』は、（ヤナーチェクがカミラを通じて垣間見た{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=419}}）女性がもつ3つの顔を描いた三部作で、『カーチャ・カバノヴァー』は「苦悩に満ちた情熱」を、『利口な女狐の物語』は「自然な天真爛漫さ」を、『マクロプロス事件』は「冷たい不自然な美」を描いている{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=252}}。ホースブルグは『マクロプロス事件』と『死者の家から』について、「（ヤナーチェクの）主題の展開と探求の体系が究極的な豊かさに到達しており、オペラ化がきわめてむずかしい物語が、かえって彼の豊かな才能を十分に引き出している」と評している{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=259}}。1920年、ヤナーチェクはプラハ音楽院ブルノ分校の教員となり、1925年まで作曲を教えた{{Sfn|内藤|2007|p=187}}。

=== 死（1928年） ===
[[ファイル:Leos Janacek hrob.jpg|thumb|180px|ブルノにあるヤナーチェクの墓]]
[[1928年]]7月30日、カミラ・シュテスロヴァーとその夫ダーヴィト、そして11歳になるカミラの息子の三人を招待して、故郷フクヴァルディに出かけた。ダーヴィトは商用のため数日で帰宅したため、ヤナーチェクは三人で休暇を過ごしていたが、この滞在中ヤナーチェクは死に至る[[肺炎]]に罹った{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=337}}。カミラの息子が迷子になったと思い込み、森の中へ探しに入ったのが原因といわれている{{Sfn|内藤|2007|p=188}}。<!--出典が不明確なためコメントアウト/ハイキングで雨に降られたせいとも言われる-->

[[8月12日]]の夜、ヤナーチェクは肺炎により[[オストラヴァ]]で息を引き取り、同月15日にブルノで公葬が執り行われた{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=337}}。妻のズデンカは連絡の遅れによりヤナーチェクの死に目に会えなかった。さらに死の直前、ヤナーチェクは遺書をカミラに有利な内容に書き換えていたため、カミラとズテンカは激しく対立することとなった{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=337-338}}。<!--出典が不明確なためコメントアウト/彼自身の指示で、妻ズデンカへの連絡は亡くなるまで行われなかった。棺はブルノの聖アウグスティヌ修道院の聖堂に安置され、葬儀は8月15日にブルノ劇場で行われた。葬儀では作曲家の生前の希望通りオペラ「[[利口な女狐の物語]]」から森番のエピローグが演奏された。オペラの中でヤナーチェク自身が台本を書き起こした部分で演奏される曲は、流れてゆく時間の中で循環し繰り返される生命・大いなる自然の営みへの感動と敬意を歌う楽曲である。ヤナーチェクは死後次第に忘れられ、比較的長く名声が保たれたドイツ語圏でも[[第二次世界大戦]]により忘れ去られることになった。その後は、チェコのローカルな作曲家として、フィルクスニーや[[ラファエル・クーベリック]]、[[ヴァーツラフ・ノイマン]]らが演奏する極めて限られた作品が聴かれるにすぎなくなった。しかし、マッケラスのオペラ録音を機に再発見がなされ、演奏される曲目も増え、その評価は次第に高まりつつあるのが現在の状況である。-->

死のおよそ2か月前の1928年5月、ヤナーチェクはオペラ『死の家より』を完成させている。完成前の1927年11月と1928年5月に、カミラ宛ての手紙でヤナーチェクは以下のように述べている。

{{Quotation|わたしはまるで人生の決済をまもなくすませなくてはならないかのように、作品をひとつ、またひとつと完成させている|{{Harv|ホースブルグ|1985|pp=335-337}}}}
{{Quotation|暗くなってきている。人は認めざるを得ないのだ、十字路の道しるべを|{{Harv|ホースブルグ|1985|p=337}}}}
{{Quotation|もうペンをおいていい時期だと私は強く感じます。……この『死の家より』が完成したらどんなに心の荷がおりることか、あなたには想像もつかないでしょう。この作品に夜も昼も取りつかれて、今年で3年目になります。しかしそれがどんな作品になるのか、まだわたしにもわかりません。音符をただ積み重ねているだけです。バビロンの塔が高くなってゆきます。それがわたしのうえに崩れおちる時に、わたしは埋葬されることになるでしょう。|{{Harv|ホースブルグ|1985|p=329}}}}

同年[[2月19日]]に完成した『[[弦楽四重奏曲第2番 (ヤナーチェク)|弦楽四重奏曲第2番「ないしょの手紙」]]』は、カミラへの愛が表現された最後の作品と考えられている{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=330-331}}。

== モラヴィア音楽の特徴とヤナーチェク ==
チェコの音楽学者J・ヴィスロウジルは、ヤナーチェクの作品に「モラヴィアのフォークロア（民俗音楽）を活用し、あるいは摂取して、地方性を強く芸術作品に表出しようとする動き」と濃厚なモラヴィアの地方色を見出し、[[フランチシェク・スシル]]、[[パヴェル・クシーシュコフスキー]]、[[アロイス・ハーバ]]とともにヤナーチェクを音楽のモラヴィズム、モラヴィア主義の系譜に属する音楽家であると評価している{{Sfn|内藤|2007|p=193}}。ヤナーチェクは「民俗音楽と芸術音楽は一つの管で繋がっているようなものである」と考えた{{Sfn|内藤|2002|p=155}}。ヤナーチェクは芸術音楽が「唯一、民謡から発展する」と確信し、モラヴィア民謡から音楽の基礎を会得したといわれており{{Sfn|内藤|2007|p=199}}、その作品はモラヴィアの民俗音楽から強い影響を受けた{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=68}}。ドイツの音楽批評家ハンス・ハインツ・シュトゥッケンシュミットは、ヤナーチェクが目指したものは「民謡の精神に基づく現代音楽の刷新」であったと述べている{{Sfn|内藤|2007|p=199}}。ヤナーチェクは民謡を直接引用するのではなく、その構造を科学的に分析して独自の「語法」を会得しようとした{{Sfn|内藤|2007|p=230}}。

現在のチェコは大きく分けて、[[ベドルジハ・スメタナ]]やドヴォルザークの生まれた[[ボヘミア]]（西部）とヤナーチェクの生まれたモラヴィア（東部）という歴史的地域から成り立っているが、両者の間には文化においても違いがある。ボヘミアが「いつも多分に西ヨーロッパの一部」で「いっそう都会風で豊か」なのに対し、モラヴィアは「スラヴ系特有の東洋との同一性を保持」し、「本質的に農村」と評される{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=61-62}}。音楽についてもボヘミアの音楽が「単純な和声と規則的なリズムのパターンと調的構造」「厳格で規則正しい拍子」を有するのに対し、モラヴィア、とりわけ{{仮リンク|ワラキア (モラヴィア)|label=ワラキア|en|Moravian Wallachia}}<ref group="注釈">現[[ルーマニア]]領の[[ワラキア]]とは異なる地域。</ref>、{{仮リンク|ラキア (モラヴィア)|label=ラシュスコ|cs|Lašsko}}などスロバキアに近い東部の音楽は規則性がなく、自由な旋律によって構成される{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=|pp=62-64}}。また、ボヘミアの音楽には[[調|長調]]のものが多く、モラヴィアの音楽には[[調|短調]]のものが多い{{Sfn|井上|2004|pp=51-52}}。ボヘミアの音楽は舞踊に適するがモラヴィアの音楽は適さないとされる{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=|pp=62-64}}{{Sfn|井上|2004|pp=51-52}}。ヤナーチェクはチェコの音楽史において、「スラヴ人民の為のチェコ音楽の創造を目ざし、モラヴィア地方の諸要素を自らの内に正当化しつつ、地方レベルの音楽からモラヴィアの地方性に基づく国民音楽へ、さらには20世紀における世界的水準に至る現代音楽へと、創作の意味内容と価値を昇華させた」と評される{{Sfn|内藤|2007|p=196}}。ヤナーチェクは、スメタナの音楽のもつボヘミア的を西欧音楽・ドイツ音楽に傾斜した、「モラヴィアの『地方性』や『民俗性』を含む『汎スラブ主義』の理想を脅か」すものとみなし、「モラヴィアの伝統文化こそが、西スラヴ民族であるチェコ人の音楽を象徴するものである」と考えた{{Sfn|内藤|2007|p=195}}。内藤久子は、ヤナーチェクは「西洋としてのチェコ音楽」ではなく「『スラヴ民族としてのチェコ民衆の音楽』を通して見出される表現領域」{{Sfn|内藤|2007|p=195}}、「西洋文化の影響がどちらかといえば希薄な南東モラヴィアのスロヴァーツコ地方や、東モラヴィアのラシュスコおよびヴァラシュコ地方の民俗音楽」{{Sfn|内藤|2007|p=199}}にこそ、スラヴ人としてのアイデンティティを見出したのだと述べている。モラヴィア出身の音楽学者J・ヴィスロウジルは、西洋音楽の枠にとらわれなかったヤナーチェクこそ「真のスラブ民族の音楽を樹立しようとした人物」であり、ヤナーチェクの出現によって「本当の意味での『チェコ国民音楽』の発展」が始まったのだと述べている{{Sfn|内藤|2007|p=269}}。

モラヴィア民謡では旋律を[[音程|三度や六度]]で重ねることがある。ヤナーチェクは部分的にこの手法を用いることで効果を上げている。これはボヘミア民謡にも共通の特徴であり、ヤナーチェクに先行するスメタナやドヴォルザークもしばしば用いているものである{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=65}}。イーアン・ホースブルグは、ヤナーチェクがこの手法を用いた場合について、「最大の同情がこめられた瞬間においては、…過酷な音楽との対比において、突然きらめく日の光のようにきわ立っている」と評し、例としてオペラ『死の家より』第一幕冒頭を挙げている{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=65}}。

ヤナーチェクは民謡を研究する中で、モラヴィア、とりわけ東部の民謡が「話し言葉（の抑揚）」から生まれると考え{{Sfn|内藤|2007|p=159}}、オペラ『イェヌーファ』作曲中の1897年以降{{Sfn|内藤|2007|p=186}}、「人間の心の動きの表れである話し言葉の抑揚を、言葉の意味と関連させて楽譜に写し取った」旋律（「[[旋律曲線]]」または「[[発話旋律]]」）を収集し、作曲の際の参考とするようになった{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=419-420}}。ヤナーチェクは発話旋律について「魂を覗き見るための窓」{{Sfn|赤塚|2008|p=|pp=191-192}}、「人間のある瞬間の忠実な音楽的描写であり、人間の心とその全存在のある一瞬の写真である」{{Sfn|赤塚|2008|p=|pp=191-192}}、「生なるもの'のすべてを映し出す鏡」{{Sfn|内藤|2007|p=242}}「発話旋律の中にのみ、チェコ語による劇的な旋律の真の範例が多く見出される」{{Sfn|内藤|2007|p=241}}と述べている。収集の対象は娘のオルガの臨終の床での言葉や動物の鳴き声にも及んだ。このことについて和田亘は、「偉大な自然の理法にしたがって生きる人間や動物の言語のいわば<<深層構造>>に迫ろうとする、ヤナーチェクの並々ならぬ熱意を示している」と評している{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=419-420}}。ヤナーチェクの楽曲の特徴は、旋律曲線または発話旋律を参考にした「少数の核となる[[モチーフ (音楽)|動機]]の反復と変容から全体が植物が繁ってゆくような独自のパターンを確立している」点にあるといわれている{{Sfn|相澤|1992|p=461}}。ヤナーチェクは収集した発話旋律を着想を得るための材料にはしたが、そのまま楽曲に活用することはしなかった{{Sfn|赤塚|2008|p=|pp=193-194}}。この点についてヤナーチェク自身は次のように述べている。

{{Quotation|収集した発話旋律、痛々しいほどに敏感な他人の心の断片をこっそりともちいて、自分の作品を『つくりあげる』などということは考えられるのだろうか?どうすればそんなばかげたことを推し進められるのだろうか?!|{{Harv|赤塚|2008|p=194}}}}

<!--出典が不明確なためコメントアウト/モラヴィアの音楽は、ボヘミアの音楽が強拍で始まる1、2小節あるいはその組み合わせからなるリズムパターンを反復する舞踏的な構成であるのに対し、基本的にはリズムの反復構造を持たず言葉の抑揚に任せ[[朗唱]]風になだらかなリズム、メロディで推移してゆくものであった。ヤナーチェクは、こうした特徴にはモラヴィア地方の[[方言]]が関与していると推測した。モラヴィアの言葉は[[アクセント]]が平板化するという特徴があり、彼はこの特徴を音楽の特徴と結びつけて考え、モラヴィアの[[民謡]]の旋律は「話し言葉の抑揚から生まれた」との結論に達した。彼は、これを「[[発話旋律]]」あるいは「[[旋律曲線]]」と呼んでいる。このアイディアは真に現代音楽への道を開くものであり、[[スティーブ・ライヒ]]のオペラや[[クリストフ・デルツ]]の「トランスコンポジション」と呼ばれる作曲技法に影響を与えた。-->
<!--全体に出典が不明確なためコメントアウト/
=== 民俗音楽のインパクト ===
ヤナーチェクは、スメタナ、ドヴォルザークに次ぐ、時代的にも知名度でもチェコ第三の作曲家であり、チェコ[[国民楽派]]の重要な一人に数えられる。

ヤナーチェクが先行二者との間に違いをなす点は、その音楽語法にある。スメタナとドヴォルザークは育った背景などの要因から、活用法には大きな違いがあるものの（詳しくは[[アントニン・ドヴォルザーク#音楽史上の位置づけ|ドヴォルザークの記事]]を参照）、民俗音楽の[[旋律]]や[[リズム]]を素材として扱い、それを既存の古典的な音楽語法に合わせて和声や構成を換骨奪胎していった点では共通している。ヤナーチェクは20歳の時に知り合ったドヴォルザークを敬愛しており、大きな影響を受けたが、彼は旋律を引用したり、形だけのリズムを切り取ったりはせず、その音楽の形式そのものから民俗音楽の語法を取り入れ、自らの語り口にするというやり方をとった。

1886年以降に彼が行った、[[民謡]]の生まれた現場へ出かけてそれを採集して、自らの音楽語法として取り込む[[民俗学]]的な[[フィールドワーク]]の手法は、その20年後に[[バルトーク・ベーラ|バルトーク]]と[[ゾルターン・コダーイ|コダーイ]]が[[ハンガリー]]や[[ルーマニア]]で、さらにその15年後に[[ポーランド]]で[[カロル・シマノフスキ|シマノフスキ]]が始めている。

ヤナーチェクの登場した19世紀後半、後期[[ロマン派音楽|ロマン派]]の音楽は爛熟を極め、その[[和声]]の錯綜は[[リヒャルト・ワーグナー|ワーグナー]]の「[[トリスタンとイゾルデ (楽劇)|トリスタンとイゾルデ]]」に至り、行き詰まっていた。

この頃、中東欧を支配してきた強大な[[帝国]]の求心力は急速に低下し、それまで中央の政府に抑圧され、演奏が禁じられすらしていた自らの言葉を自らの旋律に乗せて歌う民謡が、祖国独立を訴える民族運動のたかまりと共に見直されつつあった。この動きに連動し、民謡を自らの音楽に取り入れ健全化しようと考える音楽家が現れた。帝国支配が行き渡ることにより街道の交通網が整備され、音楽家がその現場を訪れ直接耳にする機会が増えたことも、このような手法が登場する要因の一つとして評価すべきではあるが、しかしそれは、地域交流により土地固有の民謡が損なわれる危機をも意味していた（すでにバルトークはこれを嘆いている）。その中で民謡採集のフィールド・ワークは行われたのであり、ヤナーチェクはその先鞭をつけた。-->
<!--全体に出典が不明確で、独自研究と受け取られかねない表現が含まれているためコメントアウト/
== ヤナーチェクのテーマ ==
ヤナーチェクのテーマは「拘束からの解放」という点で首尾一貫している。それはモラヴィア北部の山村フクバルディの豊かな自然から切り離され入れられた修道院の厳しい規則の中で生まれ、ライプツィヒやウィーンで辺境者として味わった疎外感によって育まれたものであると考えられる。ヤナーチェクのチェコ語を重んじる音楽が郷土愛から愛国主義へ、そしてこのテーマと結びつき民族運動へと発展するのは極めて自然な成り行きであった。タラス・ブーリバ (1915-18年)やピアノ・ソナタ (1905年)はその代表作である。
1917年に出会った、カミラは人妻であったが、ヤナーチェクに対して終始年長の友人として接していた。直後、1918年[[チェコの歴史#チェコスロバキア時代（1918年-1993年）|チェコスロヴァキアが独立]]を果たすと、彼の音楽は旧弊な婚姻制度の抑圧、あるいはその犠牲にされている女性をテーマとするようになった。婚家で冷たくあしらわれ不倫の末に自殺に追い込まれる女性を描いたオペラ「カーチャ・カバノヴァー」（1919-21年）、次のオペラ「[[利口な女狐の物語]]」（1921-23年）では主人公の狐が雌鶏に対して「雄鶏の圧政に抵抗して新しい世界を作るんだ」と演説し、翌1924年の弦楽四重奏曲第1番は嫉妬深い夫に殺されてしまう女性の悲劇を題材にしている。また、1894-1903年のオペラ「イェヌーファ」では血縁関係で縛られた田舎の秩序が生んだ悲劇を描き、最後のオペラ「死者の家から」（1927-28年）は文字通り監獄から出て行く話であった。さらにはカミラに出会って以後最初の作品である連作歌曲集「消えた男の手紙」（1917-19年）は、男が[[ロマ|ジプシー]]女のために両親や家といったしがらみを捨てる物語であった。-->

== 作曲法 ==
{{節スタブ}}
ヤナーチェクがオペラの作曲で用いたプロセスは以下の通りである。
#主題について、かなり長い時間をかけて考える{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=256}}
#「自然発生的なおおまかな草稿をスコアの形で書く」{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=256}}
#「オペラの最終的な形が明瞭に認められるスコアを書く」{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=257}}
*第1段階では、「しばしば、作品に固有の環境の環境を探り同化しようとする努力がはらわれた」。たとえば『マリチカ・マグドーノヴァ』作曲時にはオストラヴァの工業地帯を、『ブロウチェク氏の旅行』作曲時にはプラハの聖ヴィトゥス大寺院の塔を訪れている{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=256}}。
*第2段階については、「（ピアノの）ペダルをしっかり踏んだままにして」、「同一のモチーフを繰り返」しながら、「通常このモチーフをもとにして作られる曲を、ピアノを使わずに熱狂的に紙面に書きつける」姿の目撃談がある{{Sfn|ホースブルグ|1985|pp=256-257}}。

== ヤナーチェクの受容史 ==
前述のように、「二流の地方の作曲家」であり、「プラハにおいては、彼はいくぶん冷やかに作曲家とみられていたが、それよりもわずかに敬意をこめて民俗学者と考えられていた」ヤナーチェクの知名度は、1916年にオペラ『イェヌーファ』のプラハでの上演を成功させたことにより大きく広がり{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=|pp=9-10}}、1920年代に入るとブルノやプラハでオペラ作品が次々と上演されるようになった{{Sfn|内藤|2007|pp=187-188}}。ただし母国以外で作品が上演されたのは主にドイツで、上演される作品はほぼ『イェヌーファ』と『カーチャ・カバノヴァー』に限られていた{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=|pp=9-10}}。

英語圏では1919年に[[ロンドン]]で催されたチェコスロバキア音楽祭で男声合唱曲『マリチカ・マグドーノヴァ』が演奏された{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=291}}後、ローザ・ニューマーチの尽力によって[[1922年]]にロンドンの[[ウィグモア・ホール]]で『消えた男の日記』が、[[1926年]]にはウィグモア・ホールで『[[弦楽四重奏曲第1番 (ヤナーチェク)|弦楽四重奏曲第1番]]』など4曲が、[[1928年]]にロンドンの[[クイーンズ・ホール]]で『シンフォニエッタ』が、1928年に[[ノリッジ]]で『[[グラゴル・ミサ]]』が演奏・上演された{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=|pp=292-298}}が、ほとんど関心を示されなかった{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=10}}。アメリカでは[[1924年]][[12月6日]]に[[ニューヨーク]]の[[メトロポリタン歌劇場]]でオペラ『イェヌーファ』（ドイツ語訳、[[マリア・イェリッツァ]]主演）が上演された時、イギリスの批評家[[アーネスト・ニューマン]]はこの上演を「明らかに素人に毛が生えた程度の男の作品としか思えない音楽」と酷評し、他にも「多くの批評家がヤナーチェクのなじみのない様式に当惑」した{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=|pp=267-268}}。

音楽評論家の相澤啓三はオペラ史におけるヤナーチェクの位置づけについて、以下のように評している。

{{Quotation|一見カオス状の<20世紀のオペラ>の中には何々主義でもなく何の立場を表明するものでもないオペラ作曲家たちがいます。その作曲行為には自発性と多様性があり、その作品は劇場性と個人様式をそなえ、そしてある意味では孤立した作曲家たちですが、ある意味ではオペラの辺境から現れてその母国語の声調とその風土の音楽語法とに拠って新鮮な悦びをもたらしてくれた作曲家たちです。その最高がチェコスロヴァキアのヤナーチェクとイギリスの[[ベンジャミン・ブリテン|ブリテン]]の2人です。|{{Harv|相澤|1992|p=450}}}}

相澤は1992年発行の著書『オペラの快楽』において、ヤナーチェクのオペラが広く世に知られるようになったのは1970年代以降であるが、チェコ語で書かれた9曲中「少なくとも5曲か6曲はこれから世界中のオペラハウスのレパートリーとして歓迎されるようになるでしょう」と述べている{{Sfn|相澤|1992|pp=459-461}}。

<!--出典が不明確なためコメントアウト/ヤナーチェクは死後次第に忘れられ、比較的長く名声が保たれたドイツ語圏でも[[第二次世界大戦]]により忘れ去られることになった。その後は、チェコのローカルな作曲家として、フィルクスニーや[[ラファエル・クーベリック]]、[[ヴァーツラフ・ノイマン]]らが演奏する極めて限られた作品が聴かれるにすぎなくなった。-->
ヤナーチェクの死後の1951年、オーストラリアの指揮者[[チャールズ・マッケラス]]の尽力によりオペラ『カーチャ・カバノヴァー』が初めて[[サドラーズウェルズ劇場]]で上演された{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=|pp=10, 338}}のを皮切りに、「ヤナーチェクに対する最も熱狂的な支持」がイギリスで巻き起こった{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=10}}。イギリスでは「主要なオペラがすべて上演され」たほか、オペラ以外の作品に対する関心も高まりつつある{{Sfn|ホースブルグ|1985|p=10}}。音楽評論家の相澤啓三は、ヤナーチェクのオペラが中部ヨーロッパから外に出るようになったのはマッケラスの功績であると評している{{Sfn|相澤|1992|p=461}}。

== 作品 ==
{{See|ヤナーチェクの楽曲一覧}}

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist|20em}}
=== 出典 ===
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== 参考文献 ==
*{{Cite book|和書
|author=相澤啓三
|year=1992
|title=オペラの快楽
|publisher=[[宝島社|JICC出版局]]
|isbn=4-7966-0251-8
|ref={{SfnRef|相澤|1992}}
}}
**この記事では第2部「オペラが待っている」内「カオスと孤立」（447-487頁）を参照。
**[[洋泉社]]版（1995年、ISBN 4-89691-182-2）、文庫版（宝島社、2008年、上巻ISBN 4-7966-6573-0、下巻ISBN 4-7966-6575-7）あり。
*{{Cite book|和書
|author=赤塚若樹
|year=2008
|title=[[ヤン・シュヴァンクマイエル|シュヴァンクマイエル]]とチェコ・アート
|publisher=[[未知谷]]
|isbn=4-89642-235-X
|ref={{SfnRef|赤塚|2008}}
}}
*{{Cite book|和書
|author=[[阿部賢一]]
|year=2012
|title=複数形のプラハ
|publisher=[[人文書院]]
|isbn=4-409510665
}}
*{{Cite book|和書
|author=[[粟津則雄]]
|year=1986
|title=音楽と文学との対話
|series=音楽選書49
|publisher=[[音楽之友社]]
|isbn=4-276-37049-3
|ref={{SfnRef|粟津|1986}}
}}
* {{Cite journal|和書
|author = 井上道子
|date = 2004-03
|title = ヤナーチェクの作品とモラヴィア民謡の関連性を探る：ピアノ作品「草かげの小径」を題材として
|journal = 尚美学園大学芸術情報学部紀要
|issue = 3
|pages = 47-64頁
|url = https://ci.nii.ac.jp/naid/110006665576
|format=PDF
|ref = {{SfnRef|井上|2004}}
}}
*{{Cite book|和書
|author=内藤久子
|year=2002
|title=チェコ音楽の歴史：民族の音の表徴
|publisher= 音楽之友社
|isbn=4-276-13567-2
|ref={{SfnRef|内藤|2002}}
}}
*{{Cite book|和書
|author=内藤久子
|year=2007
|title=チェコ音楽の魅力：スメタナ・ドヴォルジャーク・ヤナーチェク
|series = ユーラシア選書 5
|publisher= [[東洋書店]]
|isbn=4-88595-658-7
|ref={{SfnRef|内藤|2007}}
}}
*{{Cite book|和書
|author=イーアン・ホースブルグ
|others=和田旦・加藤弘和（訳）
|year=1985
|title=ヤナーチェク：人と作品
|publisher=[[泰流社]]
|isbn=4-88470-511-4
|ref={{SfnRef|ホースブルグ|1985}}
}}
* Janacek, L. and Stosslova, K. (Tyrrell, J. ed. & tr.) "Intimate Letters" Princeton University Press, 1994 ISBN 0-691-03648-9

== 関連項目 ==
{{Portal クラシック音楽}}
{{Commonscat|Leoš Janáček}}
* [[チェコの音楽]]
* [[パヴェル・クシーシュコフスキー]]
* [[ヤナーチェク (小惑星)]]

== 外部リンク ==
* [http://www7b.biglobe.ne.jp/~janacekjapan/ 日本ヤナーチェク友の会]
* {{IMSLP|id=Jan%C3%A1%C4%8Dek%2C_Leo%C5%A1|cname=レオシュ・ヤナーチェク}}
* {{Kotobank|ヤナーチェク}}

{{Normdaten}}
{{Featured_article}}

{{DEFAULTSORT:やなあちえく れおしゆ}}
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